ここ数年、上海市内に増えてきたのが「大牌挡(ダーパイダン)」(大排档と書く場合も)という飲食店のジャンル。
屋台街みたいな雰囲気と料理を味わえるお店のことで、代表格は南京の伝統的な屋台料理を揃えたチェーン店「南京大牌挡」です。
最近では異国料理の大牌挡も登場していて、昨年10月にオープンした「MINI YEAH(超级迷你椰・泰式大排档)」は、バンコクの屋台街がコンセプト。ジャンクなタイの屋台料理を安く揃えているため、連日行列ができています。
そんななか、2022年初現在、私がいちばんハマっているのが「謝記大牌挡(シェジーダーパイダン)」です。
簡素なテーブルに手書きメニュー、深夜まで食事できて、いつ行っても賑やか。路上に座って飲める昔ながらの屋台を、そのまま屋内に持ってきた感じのお店です。
私の自宅から徒歩5分ほどという近さもあり、「人数が集まればとりあえずここ」という感じ。やけどするほどの熱々を即届けてくれるので、デリバリーもよく頼んでいます。
このお店のイチオシは、看板メニューでもある「滋补花雕鸡锅(ズーブーホアディアオジーグオ)」。トウキ、ナツメ、トウジンなどが入った白濁生薬スープにたっぷりの紹興酒の一種の花雕酒を流し込み、そこに骨付き鶏を入れて食べる火鍋です。
前回の記事にも書きましたが、ここ1〜2年の上海の火鍋トレンドの傾向は、麻辣よりも「素材の味系」と「ヘルシー系」。「滋补花雕鸡锅」もその代表格と言えます。
煮込んだ鶏のだしとトウキの香り、ほんのり甘い花雕酒の風味が融合したスープはとにかく絶品。
このスープと鶏肉だけを味わえばもうOKなので、鍋に入れる追加の具材はいつも1〜2品です(今日はほうれん草ときのこだけ追加)。私もこの店を知るまで、こんな食べ方でこんな風味の火鍋があることを知りませんでした。
ところでこの「花雕鸡锅」は、検索してもどこの料理なのかわからないのが謎。広東料理の「花雕鸡」はまったく別モノですし、紹興料理の「花雕鸡」も味は似ていますが鍋ではありません。
私のなかでは「謝記大牌挡」のオーナーが上海人で、お店のジャンルが「上海料理」であること、紹興酒を飲む文化は上海と浙江省、江蘇省周辺のものなので、そのあたりで発生した新しい火鍋だと考えることにしています。
鍋以外のおすすめは「糖醋排条(タンツーパイティアオ)」。揚げた豚肉を甘酢で炒めた、上海料理の代表格の一つです。
もう一つは「咸蛋黄鸡翅(シェンダンホアンジーチー)」。揚げたチキンの手羽を咸蛋(アヒルの卵の塩漬け)の黄身入りの衣で揚げた料理です。
まわりが黄身なのにサックサクで、しかもまろやかな塩味。ほかのお店にもある定番メニューなのですが、ここまでサクサクでジューシーなのは初でした。
お店ではもちろん、家飲み時にも必ずデリバリーで頼んでしまう逸品です。
さらに、「謝記大牌挡」は1階部分を秋冬だけ上海ガニ業者(小売と卸し)に間貸ししているため、メニューにはない上海ガニも食べることができます。
ただし経営は別なので、自分で1階に降りていって生簀からカニを選び、蟹屋の店主に支払いを済ませてから席で待つシステム。これをやるには、1テーブルで200元以上オーダーするというルールがあります。
※3〜4人でお酒、料理を頼むと1人100元前後なので、ルールとしては楽勝。
そしてもう一つのこちらのお店の魅力は、店内にわけのわからない手書きメニューやイラストがたくさん貼ってあること。
もともと私がこの店に入ってみようと思ったきっかけは、店に上がる階段の前にシャンデリアと白いクロスのフレンチレストランみたいなイメージイラスト(マジックで手書き)が貼られていたから。
外観からして全然違う、つっこまざるを得ないこの感じに魅了されてしまったのでした。
店内のホワイトボードには、「你猜(何だと思う?)」と言葉とともにその日の裏メニューが謎解き系のイラストで描かれています。「イラストを見て何の料理なのか当ててみて」ということですが、当たらなければオーダーできないので、お店的には損ではないかと思ってしまいます。
定番ビールの「大乌苏」も意味不明の表記で張り出されており、トイレの入り口には「海王」と書かれており、すべて意味不明。
が、常に満席で深夜まで大賑わいのため、お店の人は常に忙しそう。以前、誰が書いているのかを聞いた際も、「教えない」と忙しそうに答えてくれたのみでした。
店舗情報
謝記大牌挡
上海市徐匯区烏魯木斉中路298号
※1階は蟹問屋、2階に店舗がある