【海外現地化系】新宿職安通りの黒くて甘いチャジャンミョンは韓国中華

「ガチ中華」の発掘を始めて早2年半。多士済々なメンバーの活動のおかげで、都内に驚くほど多彩な中華料理が存在することがわかってきました。

なかでも興味深いのが「海外現地化系」というジャンル。これは中国生まれの料理がいったん海外に伝播し、その後各国で現地化したご当地中華のことですが、そうした中華の変異種までが、日本で体験できるようになったことを意味します。こうなってくると、「海外の中国語圏の人たちが来日して始めた料理」という「ガチ中華」の暫定的な定義も見直さなければならないといえるかもしれません。

その代表のひとつが「韓国中華」です。

新宿歌舞伎町の裏手の職安通りに面した場所にある韓国ちゃんぽん専門店「香港飯店0410」。韓国中華なのになぜ「香港」なのかという疑問はともかく、ここは2016年にオープンした、韓国風チャンポンやチャジャンミョン(ジャジャン麺)、タンユスク(酢豚)などが食べられる韓国中華の専門店です。

韓国の料理研究家で、外食チェーンをいくつも展開するペク・ジョンウォンさんがオーナーで、店内は韓国ファンと思われる若い女性客が多いです。

メニューをみると、チャンポンや汁なし(焼き)チャンポン、チャジャンミョン、タンスユクなどがありました。店の人には「そんなに辛くない」と言われたのですが、真っ赤にスープが染まったチャンポンは避けて、チャジャンミョンを注文してみました。

チャジャンミョン(짜장면)は韓国の国民食といわれるほどで、フライドチキンと並んでデリバリーでいちばん人気の料理です。韓国ドラマや映画にもよく登場し、4月14日の「ブラックデー」には恋人がいない若者たちが黒服で集まり、チャジャンミョンを食べるイベントもあるそう。

個人的には味が少し中途半端(辛さも甘さもどっちつかず)に思えたのですが、どちらかというと、スパゲティのミートソースの韓国版という感じもしないではありません。

チャジャンミョンは、もともと中国山東省由来の炸醤麺(ジャージャンミエン)が韓国で現地化し、ご当地麺となったものです。

中国と韓国の炸醤麺は見た目も味も全然違います。

どちらも肉ミソかけ汁なし麺なのですが、中国では甜面醤(テンメンジャン)を使った塩辛い味つけで、キュウリやネギ、パクチーなども添えられています。一方韓国のミソは黒味噌にカラメルを加えた春醤(チュンジャン)で、色は黒く甘いです。

中国から炸醤麺が韓国に伝わったのは20世紀初頭で、最初は仁川の中華街で食べられていましたが、朝鮮戦争が起こり、1950年代以降、中国系の人たちの多くが韓国を離れたことで、代わって韓国の調理人が中華料理店で鍋をふるうようになりました。こうして1970年代頃から、チャジャンミョンは韓国人好みの味に変わったそうです。

さらには、日本の食文化の影響もあり、たくあんが付くのがポイントです。それは言ってみれば、韓国の町中華みたいなものですが、中韓両方の味が体験できるいまの東京って面白いと思いませんか。

面白いといえば、チャジャンミョンのソースになる春醤という韓国ミソを入手しようと上野の韓国食材店に行ったのですが、そこには売られておらず、職安通りの韓国広場に行くと、ふつうに売っていました。

上野は老在日韓国人の方たちが中心の世界ですから、韓国で1970年代に生まれたという、ソースが黒くて甘くなったチャジャンミョンとは縁がなさそうです。1980年代以降に来日したニューカマーの韓国人だからこそ、知っている食の世界だったのでしょう。

実際、韓国広場の近くには、香港飯店0410以外にも、新宿飯店とジャジャン麺ハウスという韓国中華の店があります。

さて、チャジャンミョン以外の韓国中華についても紹介しましょう。

まずチャンポン(짬뽕)」です。これも中国山東省由来のスープ麺で、豚骨などでダシを取りますが、本場と違ってトウガラシをたくさん入れるのでスープは真っ赤です。エビやイカなどの海鮮や野菜がふんだんに入っています。チャンポンという名は、日本統治時代に長崎ちゃんぽんに似ていることからそう名づけられたといわれます。

そして韓国風酢豚の「タンユスク(탕수육)」。片栗粉をまぶして揚げた豚肉に甘いソースをかけて食べます。日本の酢豚にも似ていますが、酸味は抑えられており、中国語の「糖醋肉」が転じて韓国風の名称になったようです。

「ホットク(호떡)」は、中国語で「胡餅(フービン)」といい、19世紀末に韓国に来た中国人商人が露店で売り出したものです。甘いクルミのあんが入ったホットケーキのような素朴なおやつで、現在ではあんの中身の種類が豊富になって現代化しています。

「マンドゥ(만두)」は餃子のことで、日本の餃子と似ていますが、衣を包むかたちが少し平たくなっています。水餃子もあり、「ムルマンドゥ(물만두)」といいます。

こうした韓国中華は韓国の町中華みたいなものだと先ほどいいましたが、実は韓国でも日本と同様、「ガチ中華」が食べられるようになっています。その一大ジャンルは、中国吉林省延辺朝鮮族自治州から来た人たちが始めた「延辺朝鮮族料理」です。

ソウルには、羊の串焼き(羊肉串)の韓国語である「ヤンコチ」通りと呼ばれる中国朝鮮族の飲食店が多く並ぶエリアがあります。

このエリアが羊の串焼きの町として知られるようになったのは2010年頃からだそうで、商売を始めたのは、1992年の中韓国交回復以降、韓国に労働者として来た延辺朝鮮族の人たちです。まさに韓国版「ガチ中華」の世界といえます。

「ヤンコチ」はあの『愛の不時着』にも登場する朝鮮族の人たちのご当地グルメです。

延辺料理の店は東京にもありますね。

先日、東京のコリアタウンと呼ばれる新大久保を訪ねたとき、面白い発見がありました。2002年夏にオープンした「金達萊」という、東京では老舗の延辺朝鮮族料理店があり、それまで何度か友人と訪ねたことがありました。店名の「金達萊」は中国吉林省延辺朝鮮族自治州の州花のツツジに似た花のことで、実際に当地には同じ名前の老舗冷麺屋さんがあります。

今回近くを通りかかったところ、その店はいつのまにか「韓国家庭料理店」に鞍替えしていたのです。

なぜこんなことに!? と思ったら、店の前の宣伝文句をみて判明。そこには「BTSも絶賛‼!ヤンコチ(羊肉串)」とありました。場所柄、またご時勢ゆえにこうなったんだなと納得。

「ガチ中華」が日本のみならず、世界各地でワールドワイドに現れているというのは、こういうことなのです。

追記

10月2日、大阪で開催された「食べるぞ!世界の地元メシ第3回オフ会in大阪」に参加しました。会場は生野区今里にある中国東北&韓国中華の店「紫金城」でした。

この店については、今回のオフ会でメインスピーカーを務めた京都在住アジアグルメライターの浜井幸子さんが紹介しています

浜井さんのすすめで、イベントの翌日のお昼、同店を再び訪ね、名物の「ジャジャン麺」を注文しました。真っ黒で濃厚なミソに麺をしっかりからめていただきます。黄色いたくあんとタマネギが付いています。

浜井さんも書いていますが、この店の主要な客は周辺に住むベトナム人だそうです。地元のタウン誌でも、今里は「韓国・中国・ベトナム…多文化が共生する街」として紹介されていました。「ガチ中華」はベトナム人の口にも合うそうです。

撮影/佐藤憲一
(東京ディープチャイナ研究会)

店舗情報

香港飯店0410職安通り店

新宿区歌舞伎町2-19-10
03-6265-9952
※都内には、原宿店や赤坂店もあります。

新宿飯店

新宿区大久保1-11-1
03-3200-0124

ジャジャン麺ハウス

新宿区歌舞伎町2-32-17 富士会館 1F
03-5155-9949

紫金城

大阪市生野区新今里3-10-26
090-9058-1773

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