東南アジアの華僑系中華料理は「広東」「潮州」「福建」「海南」という、いわゆる「言語集団」で特徴付けられます。
ベトナムのホーチミンにも大きな中華街「チョロン」があります。
チョロンでは、それぞれの言語集団別に、中華寺院とレストランがコミュニティーを造り上げているところに、大きな特色があります。まずは、それぞれのコミュニティーを歩いてみましょう。
チョロンの位置
ホーチミンの中心地で観光的にも非常に有名なベンタイン市場から南西に車で20~30分の距離にあります。ホーチミンの華僑・華人は、人口、約1000万人に対して、50万人程度(参考)と言われていますが、大部分はチョロンに住み、大きな中華圏を形成しています。
ベトナムでの中華系言語集団別割合は、参考値なのですが、広東=56%、潮州=34%、福建=6%、海南=2%と言われます。チョロン内での割合は不明ですが類似ではないでしょうか。ともあれ広東が最大勢力です。

まずは最大勢力である広東のコミュニティーです。
広東
①ティンハウ寺院 (天后寺院)
チョロンの中華寺院の中で最も人気がある寺院ではないでしょうか。18世紀末に建立。 建物は威風堂々としていて、中の大きな渦巻き線香が印象的です。自分用に購入することもでき、祈願を込めて吊るしてもらうのも人気です。
②玉意水餃(水餃子)
チョロンでのベトナム風広東料理で一番有名なのは「水餃(スイカウ)」ではないかと思います。YouTube等でも数多く紹介されています。
チョロンの中心地に、10数軒の水餃の店が並ぶ通りがあります。Ha Ton Quyen
通りの正式名称ですが、通称「水餃子通り」とも呼ばれます。
どこも大きな差はなさそうです。老舗の一つである「玉意水餃」に行ってみました。

いくつかの種類がありますが、「烏賊入り餃子麺」にしました(VND95,000 約¥570)。メニューの一番上ですし、店の一番のお薦めでしょう。中華麺入りのスープ餃子です。餃子はプリプリしていてかなりの本格派です。小皿に辣油を乗せて“味変”を楽しめるようになっています。
香港でのワンタン麺は基本さっぱりしたスープで辣油は使いません。一般に広東料理はさっぱり味が多いです。そこに辣油を合わせるところがベトナム風で、折衷としたところが、「ベトナム風広東料理」として水餃が特別な位置付けになっているように思いました。
③Baoz Dim Sum(飲茶)
広東料理で続くのは飲茶です。何といっても飲茶は広東料理の代表格ではないでしょうか。朝早めの時間帯に、点心を軽くつまみながらゆったりと中国茶を楽しむのもいいし、ランチタイムに大勢の仲間たちとがやがやと楽しむのも、どちらも最適な一つと思います。
最近では日本でも、古くからの広東系に加え、台湾、香港の人気店も加わり、かなり浸透してきています。味もかなり本格的と言えるでしょう。しかし、残念ながら日本では朝食の外食文化が弱めであることから、軽く朝から飲茶、というのがなかなかできません。その点、ホーチミン、東南アジアの多くの飲茶レストランは朝早くから営業しているところが多く、広東の飲茶文化の伝統をそのまま踏襲している、と言えます。
本当は朝早く行きたかったのですが、昼過ぎになってしまい、「がやがやと楽しむ」方を選びました。Roast Duck Noodle, VND118,000 (約¥700)。パリっとした鴨の皮がまさに香港式でした。
潮州
皆さんは「潮州料理」を食べられたことはありますか? 中華料理の中でも、日本では馴染みが薄いと思いますが、素材の旨味を活かした料理として東南アジアでは有名です。
ご参考までに、福建―潮州―広東の位置関係を下記に記します。潮州の代表的な都市は潮州市と汕頭市です。潮州料理は広東料理に入るのか入らないのか二つの解釈がありますが、例えば中華粥が端的ですが、とろとろに煮込まれた「広東粥」とさらりとした風味の「潮州粥」といった具合に明白に違う個性の料理も多いため、ここでは潮州と広東とをわけます。

④ギアンホイクアン(義安会館)
広州系のティンハウ寺院と比べると、屋根の作りがかなり違います。潮州出身の友人に聞くと、これが潮州式だそうです。内部の雰囲気、信者さんの真摯な参拝は同じようです。
⑤Quán ăn TRIỀU VỊ – Ẩm thực Triều Châu
店名がベトナム表記しか見当たらず、いつまでたっても覚えられません。
こちらは諸事情で開店早々 朝7:00に行きました。何を食べるか悩みましたが、お薦めの下記にしました。卤水双拼饭(滷味二種盛りご飯)です。つやよく煮込まれた豚バラ肉、こりこりとした豚耳、豆腐等がバランスよく調和しています。

潮州料理は「素材の持ち味を活かした料理」と書きましたが、比較的知られているのは 「潮仙牛肉火鍋」か、海鮮の魚料理ではないでしょうか。どちらも高級料理です。
実はもう一つ特徴的なのは、より日常的な屋台料理から派生した「打冷店 (ダーランディム)」です。この店は打冷店の特徴を活かしたもう少し幅広いカジュアルな潮州大衆食堂店、といえます。まさにチョロンの雰囲気に溶け込んだ店でしょう。
⑥Tam Ky 森記滷味
チョロンのもう一軒は、少々変わり種です。今では日本でもバインミーの店が随分増えました。ベトナムに行かれたことのある方の大勢は現地で楽しまれたであろうバインミー。
しかし、バインミーもこのチョロンでは一風変わったアレンジがされます。オリジナルの中華をベトナム風にするのが普通のパターンですが、ここではオリジナルのバインミーを中華風に仕立てています!
福建
⑦温陵会館
こちらの寺院も華麗さでは筆頭格です。それぞれの寺院の建立は正確な記録としては残されていないようで、推定ですが1840年頃、ということです。チョロン最古の一角でしょう。
⑧DUYEN KY
シンガポール、マレーシアは福建系の人が多く、福建料理店は多いですが、それでも、例えばホッケンミー、福建バクテーのように、東南アジアで生まれた料理が多いです。
ホーチミンはもともと福建系も約6%とそんなに多くはないこともあってか、チョロンで福建料理を探すのは簡単ではありませんでした。そしてマレーシア系のバクテーの店に辿りつきました。マレーシアで食べるのとほぼ同じ、漢方スープが特徴のスタミナ料理です。
海南
⑨Hai Nam Thien Hau Temple
海南系はベトナムの中でも2%程度ということもあってからか、寺院もこの中では一番こぢんまりとしています。しかし中の雰囲気は同じです。近くの広東系のティンハウ寺院と名前が類似なのは、東南アジアの華僑に広く信仰されている天后(ティンハウ)聖母を主神としているからです。
⑩東源鶏飯
観光客にもかなり有名な店です。1番バスの通る幹線道路沿いにあり、時折バスの中から見かけていました。
店名のベトナム語表記 Cơm Gà Đông Nguyên からも、この店はベトナム風 海南鶏飯(コムガ―)の店だと思っていたら、かなり中華本格派で驚きです。店主ご主人は潮州出身で奥さんが海南出身。奥さんのお母さんが海南鶏飯の屋台を始め、軌道に乗って店舗形態にしたそうです。店先に吊るされた肉からも、ベトナムではなく、中華の香りが漂います。
⑪Café Ba Lu
最後はコーヒーです。ベトナムに行かれたことのある方は、PHIN と呼ばれる特徴的なコーヒーの抽出に興味を持たれたのではないでしょうか。

細かい粉からコーヒーを濃く苦く抽出して、練乳で甘くして飲むスタイルです。しかし、ここチョロンの伝統的なカフェではPHIN ではなくSOCK FILTER と呼ばれる器具で抽出します。これはシンガポールやマレーシアの海南のコーヒー文化の伝統です。
Café Ba Lu はチョロンの伝統市場であるフーフン市場の中にあります。1950年創業で、ベトナムの最古のカフェの一角です。市場とCafé Ba Lu とが一体化されているようです。
まとめ
今回ご紹介させていただいた11軒の寺院とレストランの位置関係を纏めます。
広東、潮州、福建、海南の特徴につき、「ベトナム風」「本場風」を含め、さわりだけでも感じていただけたら幸いです。最初はチョロンの中華に「強いベトナム風」を感じたのですが、それぞれの店がそれぞれの特徴を持ち、かつそれらが同居しているところに、チョロンの面白さを一番感じました。
機会があればそれぞれの店、コミュニティーの詳しいご紹介をさせていただきます。

(近藤雅義)
Writer
記事を書いてくれた人






















