京都の「ガチ中華」は京都大学と龍谷大学周辺、千本通りにある【全20軒紹介】

私が日本人向きの味付けとは全く違う大陸の味を出す中華料理店が増えていることを知ったのは、コロナ前のインバウンドの全盛期。ワイドショーか報道番組の特集だった。もちろん「ガチ中華」なんて言葉もまだ、生まれていなかった頃だ。

中国、台湾、韓国の旅行者は大阪が大好きだと言われている。大阪でもキタと呼ばれる梅田ではなく、ミナミと呼ばれる難波のわさわさごちゃごちゃした感じに心惹かれるらしい。

特に中国人は初めての日本旅行は、東京から入り、西に下っていくルートで旅をするが、2回目以降は大阪インアウトの人が多い。大阪に比較的長く滞在するので、毎日日本のごはんばかりと言うわけにはいかない。こんなインバウンドの中国人を主なお客とした、今で言うガチ中華の食堂が難波に次々オープンしているという特集だった。

難波でも地下鉄堺筋線の日本橋駅周辺にガチ中華の食堂は集まっている。写真は陝西料理の「朋友雑穀食府」。

一方、京都のガチ中華は、大阪のガチ中華の成り立ちとは全く違う。

京都のガチ中華食堂が集まっているところは、繁華街の四条とは離れた南北2か所にある。北は京都大学がある左京区の百万遍から元田中付近。古書店や学生向けの食堂が並び、いかにも学生街の雰囲気があるところだ。

南は龍谷大学深草キャンパスがある伏見区の地下鉄くいな橋駅周辺。こちらは国道24号線沿いに業務スーパーやラーメンチェーン店が点在している地区だ。韓国系の住人が多いところで学生街の風情はないが、信号待ちをしていると中国語の会話が普通に聞こえてくる。京都の二大ガチ中華地区は、どちらも中国人留学生が多い大学のそばにある。

1.京都大学周辺

百万遍にある京都大学。百万遍にある京都大学。
百万遍にある京都大学。中国人の中でも東北出身の留学生が多い。

15年ほど前、京大に留学していた西安出身の友人に「大学の寮に住んでいた頃、大陸の味が恋しくなったら、どこに食べに行っていた?」と聞いてみた。

すると「東山三条の『龍門』ですよ」と懐かしい中華料理屋の名前が返ってきた。ここは中国に留学経験がある私の友人たちも好きで通っていた。龍門は京都市内に数店舗展開しているチェーンの中華料理店だ。店舗によって、味にかなり差があり、当時の東山三条店は大陸出身の厨師が調理するので、正真正銘の大陸の味を楽しめることで知られていた。

今も東山三条で営業している「龍門
今も東山三条で営業している「龍門」。食べログで3.55の評価がついていた。

百万遍から元田中付近に「方圓美味」や「状元楼」など約9軒(2022年12月下旬に「鑫源」が移転するので8軒)のガチ中華の食堂があるが、2007年頃はまだ、ガチ中華の食堂はできていなかった。今のように四川料理、東北料理、火鍋、台湾料理がより取り見取りの時代が来るなんて、誰が思っただろう。当時は京大から東大路通り沿いに約1.5km離れた東山三条の龍門が留学生御用達のガチ中華食堂だった。

現在、元田中周辺で一二を争う人気ガチ中華といえば、東北料理の「火楓源」だ。

「火楓源」
火楓源の経営者は瀋陽人。東北料理店だが、夫妻肺片や水煮牛肉などのメジャーな四川料理もそろっている。

壁一面の料理写真
壁一面の料理写真は、ガチ中華食堂ではおなじみ。

「醤骨頭(ジャングートウ)」
東北料理を代表する「醤骨頭(ジャングートウ)」は豚の排骨を醤油ベースの汁で煮込んだもの。かぶりついて食べるのとあまりの美味しさに自然と無言になる。安くて利益が少ないのでお店はあまり売りたくない料理かもしれない。

2号店の火鍋店もでき、勢いに乗っているが、オープンは2018年8月と新しいとも古いとも言える時期。「火楓源」の隣に見るからに年季が入った外観の「長江辺」と言う小さな食堂がある。

「長江辺」
元田中の元祖ガチ中華の長江辺。お寿司屋さんだった店舗を居ぬきで買ったような雰囲気。ネット情報によると、2010年にはオープンしていた。

店名からして経営者は中国の南方人だろう。2軒のガチ中華店に聞き込みをしたところ、「一番古い中国人経営の店は長江辺」と断言されたのでまちがいなし。店主は安徽人だそうだ。実際に食べに行き、少しでも話を聞かせていただきたかったのだが、現在、店主が病気入院中で休業中だった。

その次に古いのが四川料理の「方圓美味」だ。

「方圓美味
「方圓美味」のご主人は、龍門三条店で厨師をしていた人。

四川料理店と書かれているが、実は経営者兼厨師は山東人。四川で料理人を長く勤めていたので、四川料理のお店を出したそうだ。女将さん曰く、「うちは7年前(2016年)に開いたの。このあたりでは長江辺の次に古いお店よ。最近は(元田中を歩くと)『あっ、また新しい店ができた!』と驚いている。でも、中国人の店が増えてきたのは、この3年ぐらいのことよ」。2016年頃は、まだ元田中にはガチ中華の食堂は2軒しかなかったのだ。

方圓美味の青椒肉絲定食
方圓美味の青椒肉絲定食。ランチタイムは周辺で働く日本人客が多い

2. 龍谷大学周辺

次は南部の龍谷大学深草キャンパス周辺のガチ中華事情を見てみよう。

龍谷大学周辺には現在「天和」、「老重慶川菜館」など、あわせて11軒のガチ中華の食堂がある。一番古いお店は2011年にオープンした「常楽小吃」だ。山東人の女将さんが言うには、当時は周辺にたった3軒しか飲食店はなく、もちろんガチ中華の食堂は1軒もなかったそうだ。

「常楽小吃」
2022年夏に改修工事をして新しくなった「常楽小吃」

そんな場所に「常楽小吃」を開いた理由は、単に近所に住んでいるので便利だったから。龍谷大学に近いとは言え、このあたりのおおらかさと言おうか、おおざっぱさは中国人らしい! 常楽小吃を開いたら、運よく語学学校ができ、商売が軌道にのったらしい。

常楽小吃の煎餅果子
京都南部に住む中国人で知らない人はいないと言われる常楽小吃の煎餅果子。中に入っている極薄の小麦粉生地(果子)は女将さんの手作り。

「常楽小吃」に近い中華物産店のご主人は「このあたりは京都南部のチャイナタウンですよ」と言われるが、正直言ってそんな風に見えない。と言うのも「常楽小吃」や「老重慶川菜館」のように国道24号線沿いにあると目立つのだが、このあたりのガチ中華の食堂の多くは、民家の1階にあるため、国道から中に入った住宅街で営業している。むちゃくちゃ探しにくいのだ。

それでもたまに行くと、新しいお店ができている。ガチ中華の食堂は確実に増えているのだが、目立たず、それぞれが離れているので盛り上がり感には欠けている。

「依奈・小厨」
龍谷大学周辺のガチ中華の食堂は、民家の1階で営業している小さなお店が多いのが特徴。ここは「依奈・小厨」。

実際にコロナ期間中にオープンしたガチ中華食堂の数は元田中よりも龍谷大学周辺のほうが多い。2022年10月にオープンした「卤(ルー)味研究所」の若い経営者、高さんは「うちも元田中をねらっていたんですよ。でも物件が全然でない。長く商売する人が多いからね」と言われる。ガチ中華の食堂の経営者は、京都大学か龍谷大学周辺で店舗を探していることがわかった。

「卤味研究所」
カフェのような雰囲気の「卤味研究所」。大連出身の高さんは元留学生。高さんのような若い世代の中国人が開いたガチ中華の食堂もでき始めた。カフェのような外観は若者には好かれるが、年配の日本人が入ってこなくなるのが難点らしい。

「卤味(ルーウェイ)」
「卤味(ルーウェイ)」は、豚肉や卵、蓮根、春雨などを醤油ベースの汁で煮込んだ中国人の国民食。中国各地にあり、地方ごとに味が異なる。麺やごはんにのっけたり、酒の肴にもなったりと自由な食べ方ができる。炒菜(チャオツァイ)の食堂はすでに多いけれど、卤味の食堂はまだなかったので、経営者の高さんは卤味の食堂を開いたそうだ。

京都南部の龍谷大学の近所にできた「卤味研究所」へ


3. 千本通り

龍谷大学と京都大学から離れたところに今、注目のガチ中華地区がある。市内西部を南北に通る千本通りだ。

西陣と呼ばれる呉服関係の職人が多く住む、伝統的な京都を代表する場所が、ガチ中華地区になっている。この千本丸太町~千本今出川周辺に香港料理「恵明」、餃子「十二藍」、四川料理「盛泉苑」など5軒のガチ中華食堂と中華食材店「平安中華商店」がある。

「盛泉苑」に行ってきました。


京都の千本今出川にある「川味麺館」


京都千本丸太町にある「恵明」


平安中華商店の店主は、立命館大学の元留学生だったので、このあたりに詳しい。「同志社大学と立命館大学の真ん中あたりで、家賃が安いから留学生がいっぱい住んでいる。だから需要があるんだよ」と言う。

京都で中国食品を扱う専門店「平安中華商店」


4. 三条商店街

千本丸太町~千本今出川からさらに南に下ると東側に三条商店街と言うアーケードの大きな商店街がある。

2021年7月末に蘭州拉麺の「甘蘭牛肉麺」ができたのをかわきりに台湾料理「阿嬷豆花店」、上海料理(実際には刀削麺など上海料理以外がメイン)「老上海」、飲茶点心「四季」の4軒がオープンした。もう立派なガチ中華地区と言ってもいい。この千本商店街の西口の真ん前は立命館大学の朱雀キャンパスだ。やはり京都のガチ中華は大学とは切り離せない。

台湾の豆花と中国茶の専門店「阿嬷豆花店」


「甘蘭牛肉麺」
三条商店街は有名ラーメン店や常に大行列のカフェがある飲食店の激戦区。なかでも「甘蘭牛肉麺」は大盛りでも追加料金なしが魅力。

牛肉麺
牛肉麺の麺は、細、二細、菱麦稜、韮葉、寛、毛細の6種類から選ぶことができる。蘭州拉麺店と言えば、東京神田に出来た「馬子禄」が有名だが、京都でも蘭州拉麺(牛肉麺)店が3軒もできた。「百萬蘭州拉麺」はわずか半年で閉店。2022年6月に上京区に「蘭州牛肉拉麵」(上京区多門町440-9)がオープンした。

京都で蘭州拉麺店が3軒もオープンしていました


5.その他

最後に私が大好きな五条大宮の「和家」を紹介したい。ここは他のガチ中華食堂とは全く成り立ちが違っている。インバウンド全盛期、和家は中国人団体客専用食堂だった。当時は「和家」と看板があるだけでゲストハウスなのか食堂なのか全くわからなかった。コロナの世界的な流行で中国人観光客が来なくなると、店の前にランチメニューが出るようになり、初めて食堂だとわかった。

五条大宮の「和家」
大型観光バスが停まりやすい五条通沿いの大学とは全く関係がない場所あり、まさにポツンと一軒家状態の和家。

今、和家は羊の背骨で作る鍋料理の「羊蝎子(ヤンシエズ)」が食べられるので、週末の夜は中国人客で満員の人気店となっている。

「羊蝎子(ヤンシエズ)」
和家の名物「羊蝎子(ヤンシエズ)」。羊の素骨で作る羊鍋を求めて、京都在住の中国人が集まってくる。瀋陽人の厨師が作る羊蝎子はかなり辛め。

和家の名物「羊蝎子(ヤンシエズ)」


「星街」は、大学周辺以外の場所にあるガチ中華の超人気店。繁華街の四条烏丸にある飲茶点心のお店で、ランチタイムは常に大行列ができる。

ガチ中華の超人気店「星街」
「星街」は大学周辺以外の場所にあるガチ中華の超人気店。繁華街の四条烏丸にある飲茶点心のお店で日本人マダム層のお客も多い。河原町三条に2号店もできた。

星街のランチセット
星街のランチセット。三条商店街に新しく出来た「四季」のご主人は、星街出身なのでランチセットはほぼ同じ。

京都四条烏丸にできた「香港飲茶星街」


京都のガチ中華食堂は、基本的に留学生が多い大学周辺に集まっている。それ以外の場所にはポツンポツンとある感じだ。

留学生以外のお客と言うと(あくまでぱっと見だが)、コロナによる旅ロスのため、旅先と同じ味を求める人やインスタ映えを求めてやってくる若い日本人には、ほとんど会わない。留学生とご近所さんに留まっているように見える。

テレビで目にする東京のガチ中華の盛り上がり様と比べると、盛り上がっていない。ガチ中華を町中華など中華料理の一つのジャンルと考えると、コロナの世界的な流行の期間を挟みながらもガチ中華の食堂は約3年で激増した。京都でもガチ中華は今一番元気がある中華料理に違いない。

店舗情報

1.京都大学周辺

龍門(東山三条店、現在は本店)

京都市東山区東山三条通東大路西入る北側

075-752-8181

状元楼

京都市左京区田中門前町102 

075-722-1788

水曜休

火楓源

京都市左京区田中里ノ前町54-1 

075-286-7518

長江辺

京都市左京区田中里ノ前町53-1

方圓美味

京都市左京区田中里ノ前町1 

075-707-2081

2.龍谷大学周辺

卤味研究所

京都市伏見区竹田久保町2-87 

075-645-6622

天和

京都市伏見区深草西浦町6-77 

075-748-6506

老重慶川菜館

京都市伏見区深草西浦町1-18 

075-286-4197

依奈・小厨

京都市伏見区深草勧進橋町50-32 

076-756-3573

常楽小吃

京都市伏見区深草下川原町125 

080-3107-1899

3.千本通り

恵明

京都市中京区聚楽廻東町3-7 

075-822-0339

木曜休

十二藍

京都市上京区仲御霊町64-2 

075-406-7394

土曜休

盛泉苑

京都市上京区多聞町434 

075-451-0358

水曜休

平安中華商店

京都市上京区笹屋町3-641 

075-606-2183

4.三条商店街

甘南牛肉麺

京都市中京区姉大宮町西側72-4 

075-748-0240

四季

京都市中京区西ノ京池ノ内町8-9 

075-496-8718

水曜休

阿嬷豆花店

京都市中京区三条大宮町273-1 

075-366-6626

老上海

京都市中京区壬生朱雀町1-4 

075-811-8081

5.その他

和家

京都市下京区柿本町592-5

075-406-5212

星街(烏丸店)

京都市中京区鯉山町532 

075-708-8885

Writer
記事を書いてくれた人

浜井 幸子

プロフィール

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