【ニューオープン】大久保「撒椒」で中華レトロフューチャーの世界に浸る

2月28日(月)、JR大久保駅から徒歩1分の場所に、ニュータイプの重慶料理店「撒椒小酒館(サージャオシャオジウグアン)」が正式オープンしました。

先週末、ひと足早くプレオープン中の店を訪ねた庄内貴史さんはこう話します。

「外から店内を覗くと、ギラギラのネオンサインに圧倒されましたが、ためらわず入店して席に着くと、さらにギラギラのネオンで装飾された天井と壁に積まれた金の延べ棒と招き猫。大久保の中でも飛び抜けて派手です」

冨田奈緒美さんも「近未来的で不思議な異空間は、店内で写真を撮るのもひとつの楽しみになりそうだと思いました」と話します。

確かに、店内には自撮りしたくなるような不思議な空間がいくつもあります。たとえば、店の奥の部屋に向かうここ。「レトロフューチャーとでもいうのかな」と庄内さん。

中国の伝統的な庭園に採用される「借景(外の風景が眺められるように壁を開けること)」のような内装の工夫もあります。

この店ではどんな料理が味わえるのでしょうか。撮影を担当したカメラマンの山端拓哉さんは話します。

「こちらの店の自慢は『烤魚(カオユィ)』と呼ばれる魚料理で、大きな四角い鍋で魚を麻辣スープで煮込んだものです。ぼくたちが食べたのは『ナマズの紙包み四川風焼魚(纸包川东过水鱼)」。ナマズの麻辣包み煮です。

こんな感じで出てきます。

しばらくテーブルの上で煮て、紙の包みを外すとこのとおり。

ジャガイモやレンコンなどが麻辣スープでナマズと一緒に煮込まれています。

店の人に聞くと、日本ではあまりナマズが手に入らないので、ほかのディーブチャイナの店では、スズキなど海魚で代用しているところが多いけど、撒椒小酒館ではベトナムからナマズを取り寄せているそうです。

まさに正真正銘の四川料理といえます。ナマズは初めて食べたのですが、プリッとした淡白な身で、四川の麻辣スープが染み込んで、身体の温まる絶品料理でした」

庄内さんもこんな感想を話してくれました。

「ぼくもナマズ料理は初めての経験で、やっぱりナマズは四川の辛い油で強い味つけがされてなければ食べられなかったと感じました。でも、慣れると魚の身のやわらかさがクセになるかも」

この店の注文はタッチパネル式。ランチの定食やドリンクを入れて8つのコーナーに分かれています。まずこの店の看板料理であるスープや具材がそれぞれ異なる「烤魚」、近頃東京のディープチャイナの店で流行しているザリガニ料理(小龍蝦)やカエル料理、シャープな味わいが魅力の前菜、肉や魚の麻辣煮込みや炒めもの(熱菜)、そしてなぜか羊や牛の串焼き、主食の混ぜご飯やライスヌードル(米線)です。

ではまず前菜から。これはタコのピリ辛和え(捞汁八爪鱼)。四川省ではタコはあまり食べませんが、日本の食材を使った創作麻辣料理で、とてもおいしいです。

そして、ピータンと牛肉の青トウガラシ和え(生椒皮蛋牛肉)。ピータンのねっとりした甘みと青トウガラシの痺れがミックスした深い味わいです。

熱菜では、カエルのピリ辛クミン炒め(撒椒孜香蛙)を頼みました。カエルの肉は小骨が入っていますが、鶏肉みたいでやわらかいです。

そして、これは隣のテーブルの人に撮らせてもらったザリガニのニンニクスープ煮込みです。

そして、しめの主食は、青トウガラシと牛肉の混ぜご飯(小炒黄牛肉擂饭)。店の人がテーブルまで来て、その場で混ぜてくれます。ほかにも豚肉入りやタマゴ入りがあります。

食後の感想です。山端さんは言います。「今回は食べてはいないけど、ザリガニ料理の鮮やかな赤に目を奪われました。ナマズやカエル、ザリガニって、まさに海のない内陸の食材。臭みを消すための、身体を温めるための麻辣。驚きでした」

冨田さんは「カエル🐸ナマズなど、日本では食べることがない食材😳は、最初は食べられるかな…😰と思いましたが、どれも香辛料が利いていて、おいしく食べることができました。店員さんも丁寧に接客してくれたのが印象的でした」とのこと。

庄内さんは「料理はどれも赤と青の唐辛子が利いた突き抜けた味。前菜から最後まで油の切れないのはさすが中華だと思いましたが、お腹は満足感でいっぱい。甘いお茶やジュースが四川の辛い味には相性が良かったです」と話しています。

この店の料理長の李懋さんを紹介します。李さんは四川省のお隣の重慶出身。つまり、この店の料理は四川料理のひとつには違いないのですけれど、中国では重慶料理と呼ばれる新しいジャンルの店といえます。

厨房も拝見させていただきました。花椒や赤トウガラシ、青トウガラシなど、たくさんのスパイスや調味料が並んでいますね。

この店のオーナーが吉林省出身の佐々木美穂さんです。

彼女によると、この店の奇抜で斬新な内装デザインは、中国在住の設計士と日本にいる施工会社が共同で作ったものだそうです。このようなデザイン様式を中国では「国潮(グオチャオ)」といいます。中国の伝統的なデザインや意匠をモダン化したもので、2010年代半ば頃に生まれています。

中国では、アパレルやコスメなどの国産ブランドの商品パッケージや、テレビの音楽番組などで「国潮」が盛んに採用されていますが、そのトレンドは飲食店の内装にも現れているのです。ですから、「このようなレストランのデザインは、いまの中国ではわりと普通です」と佐々木さんも話します。

「国潮」は中国の若い世代に支持されており、店内でデザイン化された意匠として使われる中国語、たとえば「淦(gàn)」(=若者の嘆きことば)」や「瑞馳(ruì chí)」(=リッチ)、「雅咪(yǎ mī)」(=アニメ「東京ミュウミュウ」のキャラクターから派生)、「嗨皮(hāi pí)」(=ハッピー)などなどは、若者の流行語から来ています。

それぞれそんなに深い意味はないのですが、こういうのが「国潮」っぽい世界といえそうです。日本的なレトロフューチャーとも近いような、そうでもないような……。いずれにせよ、撒椒小酒館は日本にいながら中国の最近のユースカルチャーを体験できる店といえるでしょう。

最後に山端さんからのひとこと。

「大久保駅を出て左に向かって通りを歩いていると、一発でわかります。ギラギラと派手だから。大久保は若い子たちが歩く街なので、この感覚はハマるかも。でも、それはぜひ自分の目で確かめてほしい。キラキラとした店内は、コロナ禍の沈んだ気分を変えてくれるんじゃないだろうか。もちろん、ホットな四川料理で、お腹の中から元気が湧いてくるはず」

ちなみに、撒椒小酒館は昼のランチが充実しています。880円で「白身魚の高菜煮込み(酸菜魚)」や「白身魚の辛煮込み(水煮魚)」「牛肉の辛煮込み(水煮牛肉)」をはじめとした本格的な四川料理が楽しめます。

(東京ディープチャイナ研究会)

店舗情報

撒椒小酒館

撒椒小酒館

大久保店

新宿区百人町1-18-8
03-6908-9164

池袋西口店

豊島区西池袋1-43-3
日精ビル4F
03-5949-6015
https://chinese-dining-shangrila.owst.jp/

上野店

台東区上野4-4-6
BVビル7F
03-5834-3730

Photographer
写真を撮った人

山端 拓哉

プロフィール

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