こんにちは。TDCライターの文香です。
今回紹介するのは、横浜・三ツ境にある「ブドウエン」。シルクロードの家庭料理を楽しめるお店です。今回は、中村代表、ふ味縁メンバー、そして中央アジア文化に詳しく、お店にも長く通われている中村代表の友人と一緒に伺いました。
私がこのお店を知ったきっかけは、メンバーのこむじゃさんが「ネットでレビューを見かけて」と教えてくれたことでした。
一方、中村代表も以前からこの店の存在を知っていたそうです。2年前、ハワリンバヤル(毎年都内で開催されているモンゴル文化イベント。モンゴル語で春祭りの意味)にブドウエンが出店していた際、今回ご一緒した中村代表の友人から「新疆ウイグル自治区に暮らすモンゴル系民族の人たちのお店」と教わり、興味を持ったのだとか。そんな背景もあり、今回、ふ味縁として初めての都外取材が実現しました。
それでは早速、ブドウエンを紹介していきます。
お店に足を踏み入れると見えてきたのは、異国情緒だけではありません。そこには、故郷の記憶や暮らしを、料理を通して丁寧に伝えようとする人々の姿がありました。
店主紹介、故郷・バインゴリン(巴音郭楞)とオイラト文化
「ブドウエン」は、店長のアルタンさん、社長のスラルサさんのご姉弟が営まれています。

お二人の故郷は、バインゴリン(巴音郭楞)・モンゴル自治州。新疆ウイグル自治区の南東部に位置する地域です。砂漠、草原、湖など雄大な自然が広がり、モンゴル系民族をはじめ、多くの民族が暮らしています(今回はアルタンさんから提供いただいた故郷の写真とともにお送りします)。
新疆というとウイグル族のイメージが強いかもしれませんが、実際は多くの民族が暮らす土地です。
アルタンさんたちは、その中でも「オイラト」と呼ばれるモンゴル系民族です。世界史で「オイラト」という名前を目にしたことがある方もいるかもしれません。オイラトの人々は、古くから羊や馬とともに暮らしてきた遊牧民で、かつては中央アジアで大きな勢力を築いたこともありました。現在も食文化や言葉の中には、遊牧文化やモンゴル文化の影響が色濃く残っています。
実際にアルタンさんたちも普段はモンゴル語で会話をされ、店内にはモンゴル系の文化を感じられるBGMや装飾がありました。またこれから紹介する料理にも、オイラトの食文化が色濃く表れています。

続いて、ブドウエンの料理を紹介していきます。
後ほど詳しく触れますが、ブドウエンは「故郷と日本の架け橋になりたい」という想いから生まれたお店です。料理を通して、バインゴリンやオイラトの食文化にも触れてみてください。
料理紹介
ブドウエンでいただけるのはアルタンさんたちのお母様の味を再現した家庭料理の数々。都内で見かける新疆料理店は、漢民族系の調理スタイルや食文化をベースにした、香辛料をしっかり効かせた料理が多い印象があります。
一方ブドウエンの料理は、同じ新疆料理でありながら、オイラトならではの遊牧文化を感じる、より素朴で滋味深い味わいが特徴的でした。
アルタンさん曰く「故郷でも大切にしている、食材そのものの風味を活かしたい」という想いから、料理によっては塩のみで味付けをするのだとか。前菜からドリンクまで、故郷で親しまれてきた味や文化が随所に息づいていました。
前菜3種盛りプレート
まずはシルクロード料理が詰まった前菜プレート。この日は「ジャオマージー(鶏肉と長ネギの山椒と唐辛子炒め)」「春雨と人参の和え」「5品目の野菜のピクルス」の3種類でした。

特に注目して欲しいのがアルタンさんが「日本で広めていきたい味」と話す乾燥唐辛子。前菜プレートでは「ジャオマージー」で使われています。

この唐辛子は、故郷で無農薬栽培されたものを乾燥させ、日本へ持ち込んでいるそうです。
新疆は乾燥地帯であり、野菜や果物、香辛料などを乾燥させて保存・活用する文化が発達しています。アルタンさんから故郷での栽培風景の写真を見せていただきましたが、立派な実と圧倒的な量に驚かされました。
さて、唐辛子を口に入れると、まず感じるのは辛さよりも甘みと香ばしさ。肉厚で、噛むほどに旨みが広がります。
日本で一般的に使われる細い唐辛子とはかなり印象が異なり、香辛料というより「野菜」に近い存在感がありました。実も大きく色鮮やかなため、料理全体が明るく華やかに見えるのも特徴です。
ジャオマージー以外の2品も、それぞれ故郷の味を感じられる料理でした。
「ピクルス」は皆さんもよくご存知の野菜の酢漬けですが、新疆の中でもアルタンさんの故郷で親しまれている一品だそうです。甘みと辛味のバランスが心地よく、どこか懐かしさを感じる味わいでした。「春雨と人参の和え」に使われているのはサツマイモ春雨。一般的な春雨より少し太く、もちっとした食感が印象的な一品です。
チュチュル
回族料理の一種で、羊肉スープに小さな餃子を入れた料理です。回族ではワンタンのような形状のものを入れることが多いそうですが、ブドウエンでは「しっかり肉を感じてほしい」との思いから、羊肉をたっぷり詰めた餃子仕立てにしています。羊肉を食べ慣れていない日本人のお客さんにも評判の良い一品だそうです。

スープの味付けは基本的に塩のみ。骨付きの羊肉をじっくり煮込むことで、羊の旨みを丁寧に引き出しています。そこに唐辛子や人参などの野菜が加わり、シンプルながら奥行きのある味わいに仕上がっていました。
まずはそのまま羊の旨みを楽しみ、続いて餃子と一緒に口へ。自家製ラー油や黒酢を加えて味変を楽しむのもおすすめです。
味付けが塩だけとは信じがたいほど濃厚なお味で、野菜と肉の旨味が完全に溶け合っていました。
これは毎日でも食べたい!(こむじゃ)
スペシャルラグメン
中央アジアで広く食べられている手延べ麺料理「ラグメン」。
香辛料を効かせた濃い味付けのものも多いですが、ブドウエンでは故郷のスタイルに合わせ、塩をベースにシンプルに仕上げています。素材の風味が引き立つやさしい味わいで、アルタンさんも「ブドウエンのメニューの中で、最も故郷を感じてもらえる料理」と話していました。

先ほど紹介した唐辛子をはじめ、たっぷりの野菜を使っているのも特徴です。シンプルな味付けだからこそ、小麦の風味や野菜の甘みが際立ちます。麺は一階の厨房で一本ずつ手延べされており、もちっとした食感と素朴な風味が印象的でした。噛むほどに小麦の香りが広がり、どこか温かさを感じます。
スペシャルと名がつくだけあって、とても具沢山。塩ベースでの本当にシンプルな味付けなのにも関わらず、羊肉や数多くの野菜たちの旨味が麺に絡んでいて、素晴らしい味わいでした! 優しく温かみも感じる味で、日常的に食べたい料理だと感じました。(夏木)
シシカバブー
ガチ中華でもお馴染みの羊串。辛さ調整が可能ですが、ブドウエンの羊串は塩だけでも十分に美味しく食べられるのが特徴です。

真っ赤な見た目に反して辛さはかなり穏やかで、唐辛子の香ばしさと羊肉そのものの旨みを楽しめます。
「塩だけでも成立する」という言葉にも納得で、羊特有のクセは驚くほど控えめ。噛むほどに肉の旨みが広がりました。
モンゴル(新疆?)ではあまり辛い味付けにはしないそうなのですが、激辛好きの性でついつい「大辛」をチョイス。火を吹くほどではなく、しかししっかり後を引く辛さが肉の脂とマッチして最高でした!(こむじゃ)
ボーズ(羊肉餡、干し葡萄くるみ餡)
もっちりとした小麦粉の皮に羊肉のたねを包んで蒸した料理。ブドウエンでは、羊肉と葡萄胡桃の2種類が楽しめます。
羊肉餡はミンチ状ではなく、ごろごろとした羊肉が入っているのが特徴です。肉感がしっかりとありとても食べ応えがありました。

一方の干し葡萄くるみ餡には、新疆名産の葡萄をふんだんに使用。葡萄のやさしい甘みと、くるみの濃厚なコクがよく合い、デザートとしても食事中の一品としても楽しめる味わいでした。

餡にしっかり味がついているので、タレなしでもパクパクいけます。小ぶりながらしっかり詰まっているので、お腹に余裕のあるうちに注文するのがおすすめ。(こむじゃ)
干し葡萄とくるみの組み合わせがすごく合うなと思いました。生地はふわふわもちもち食感ですが軽い口当たりなのであっさり何個も食べられそうだなと思いました。食事の最中に食べることになり、どんな舌構えでいこうかというところでしたが、食事中でも食後でもいつでも美味しく食べられるような甘さと酸味加減で、とても美味しかったです。(夏木)
ナン
平たいパン料理。ウズベキスタンなどで見られるナンと比べると、ブドウエンのナンはピザのように厚みがあるのが特徴で、こちらも新疆スタイルとのことです。
オイラトは遊牧文化を持つ民族で、移動生活の中では塩と鍋を使ったシンプルな料理が発達していました。ナンも、昔は鍋に貼り付けるようにして焼かれていたそうです。もちもちとした食感に加え、肉厚だからこそ小麦の香りがしっかり広がります。素朴ながら満足感のある味わいでした。

ドリンク
ブドウエンでは、オリジナルノンアルコールドリンクも楽しむことができます。こちらもまた、故郷の食文化をイメージして作られたものばかりです。

- 葡萄、ザクロ、自家製ジンジャーエキスを合わせた「ブドウエンスペシャル」
- モンゴルの砂漠地帯でも育つスーパーフルーツ・サジーを使った「モンゴルエルス」
- シルクロード名産のザクロをイメージした「ザクロジンジャー」
- モンゴル族が親しんできた乳酸系飲料「ヨギ」をイメージしたドリンク「ヨギー・マンゴー」など
どれを頼むか迷ってしまうラインナップです。さらに、ドリンクの上に添えられたミントは、アルタンさんご自身が育てているもの。細かな部分にも、故郷の味や食文化を丁寧に伝えたいという想いが込められていました。私は「ヨギー・マンゴー」をいただきましたが、ラッシーを軽やかにしたような味わいでした。

ブドウエンの誕生まで
アルタンさんは2006年、留学のために来日。その後、日本で家庭を持ち、暮らしを築いていく中で、「日本と故郷、両方へ恩返しがしたい」と考えるようになったそうです。そして辿り着いたのが、幼い頃から親しんできた“母の味”を日本で伝えることでした。そうして始まったのが、この「ブドウエン」です。

ブドウエンを開くにあたっては、様々な場所を探したそうです。その中で出会ったのが、ここ三ツ境でした。最初は「三ツ境」の“境”という字に、新疆の“疆”を重ね、親近感を覚えたことがきっかけだったそうです。しかし実際に街を歩くうちに、この土地そのものに強く惹かれていきました。
特に印象的だったのが、三ツ境にある白姫神社から長屋門へ続く一帯の歴史だったそう。かつてこの地域は、八王子方面から横浜港へと繋がる物流や交易の流れの中にあり、「横浜のシルクロード」と呼ばれることもあるそうです。また、養蚕業でも栄え、人や文化、物資が行き交ってきた土地でもあります。

故郷である新疆もまた、古くからシルクロードの要衝として、多くの民族や文化が交わってきた場所です。アルタンさんは、三ツ境の歴史に故郷と重なる空気を感じたと話します。さらに三ツ境周辺は土壌にも恵まれ、野菜づくりが盛んな地域なのだとか。食材を丁寧に扱うアルタンさんの故郷の考え方とも通じるものを感じたことが、この場所を選ぶ決め手の一つになったそうです。
「ブドウエン」という店名は、新疆名産の“葡萄”、ご縁の”縁”が由縁。たくさんの粒が集まって一房になる葡萄のように、多くの人が集まり、愛される店になってほしい・・そんな願いが込められています。
そうして2018年にオープンしたブドウエンは、今では地域の人々に愛される存在となっています。常連の方が作ったTシャツや、持ち込まれた朝青龍らの手形など、店内の至る所からその温かな関係性を感じることができました。

ブドウエンを通して見えてくるのは、単なる「珍しい新疆料理」ではなく、故郷の文化や家庭の味を日本で丁寧に伝えようとする姿勢でした。食を入り口に、オイラト文化や新疆という土地の奥深さに触れられる・・そんな場所が、このブドウエンです。
取材班からの感想
こむじゃ
SNSで見かけてずっと気になっていたお店にようやく行くことができました。
何を頼んでもシンプルで飽きのこない美味しさがたまらない!メニューも完全初見の新疆料理から、日本料理とのフュージョンまで、想像以上の幅広さです。「新疆料理」というと鍋いっぱいのラグメンをシェアするようなイメージでしたが、少人数で頼みやすいメニューが多かったのも嬉しいポイント。
1人で麺をサクッと食べるもよし、大人数でボーズ片手に大皿をつつくもよし。どこか懐かしい三ツ境の街に不思議と馴染む、新疆の家庭の味をぜひに味わいに行ってみてください。
夏木(写真担当)
ここで食べたどの料理にも言えることですが、香辛料や調味料で押し出すものではなく、素材の味が本当に活かされた深みのある優しい味が特徴的でした。食べていて落ち着く、日々の生活で何度も味わいたいような、そんな料理の数々でした。
文香
こむじゃさんからブドウエンを教えてもらった当初は、「最近都内でも増えている新疆料理のお店なのかな」くらいの認識でした。しかし実際に訪れてみると、そこにはオイラトの暮らしや食文化、故郷への思いがあり、新疆料理と一言でいっても、その背景には様々な文化や思いがあるのだと感じました。料理はもちろん絶品ですが、料理を通して、人や土地、文化とのつながりも感じられる場所です。ぜひ訪れてみてください。
(文章:ふ味縁、写真:夏木)
店舗情報
シルクロード料理 ブドウエン

神奈川県横浜市瀬谷区三ツ境19-21
045-360-6222
Writer
記事を書いてくれた人

文香
代表のひとこと
今回の文香さんの「ブドウエン」レポートは読みごたえがありましたね。日本人にはほとんど知られていない新疆ウイグル自治区にあるバインゴリン・モンゴル自治州出身のモンゴル人が経営するお店に行ったのは、ぼくも初めてのことでした。
文香さんが書いているように、ぼくは2024年5月に練馬区光が丘公園で開催されたモンゴルの春祭り「ハワリンバヤル」にブドウエンのみなさんが出店していたことを知っていました。そのときの話をあるメディアに書いています。

現地とつながる在日モンゴル人社会の縮図、練馬で開催されたフェスで見たもの
https://forbesjapan.com/articles/detail/71437
会場にいたモンゴルに詳しい友人が「ここはオイラトという新疆ウイグル自治区に住むモンゴル系の人たちの店だ」と教えてくれたので、一度行ってみたいと思っていました。今回登場するその友人は、ブドウエンのある横浜市瀬谷区三ツ境の近所にお住まいで、案内してもらったのでした。
モンゴル人店長のアルタンさんはとても知的で、しっかりした日本語を話すし、地元の人たちにも愛されている店だとよくわかりましたね。
実は、これまでぼくは都内を中心にモンゴル料理の店をたくさん訪ねてきました。東京に多いのは、中国内モンゴル自治区出身の場合、シリンゴルや通遼、ヒンガン盟などの東部地区や自治区の省都であるフフホトの人の店でした。西部出身の方の店は本当に珍しいと思います。
いくつかの店を訪ねて知ったのは、同じモンゴル人の店といっても、まずモンゴル国の人が経営する店と中国内モンゴル自治区の人の店では、料理のベースは同じでも、味つけが違うことでした。
その理由についても、次のような話を書いています。つまり、モンゴルの人たちは同じ民族でも、国をまたいで暮らす人たちなのです。それぞれの食文化が店にも反映しているのです。
東京で味わえる「ディアスポラの民たち」のモンゴル料理店探訪記
https://forbesjapan.com/articles/detail/71975
その意味では、新疆ウイグル自治区に住むモンゴル人の店を訪ねることができたことで、ぼくはまた新たな“違い”を知ることになりました。ブドウエンのみなさん、店を案内してくれた保田実香さん、ありがとうございました。
実は保田さんは、モンゴルやロシアなど、ユーラシア圏を専門とする旅行会社のジャパン・エア・トラベル・マーケティング(JATM)にお勤めの方で、モンゴルにとても詳しいのです。ぼくもモンゴル旅行のときは、いつも相談をお願いしている会社です。
ジャパン・エア・トラベル・マーケティング(JATM)
https://www.jatm.co.jp/top2/





