『新版 攻略!東京ディープチャイナ~海外旅行にいかなくても食べられる本場の中華全154品』(産学社)の刊行を記念した2022年8月31日、ジュンク堂池袋本店での当研究会代表・中村正人のトークイベントの中編です。
中編では、「ガチ中華」とは具体的にどんな料理なのか。特徴は何かといったことを話しています。
それは、ひとことでいえば、「4つのジャンル」+ これまで知られていなかった「地方料理」です。
「4つのジャンル」とは、麻辣系…痺れをともなう本場四川の辛さ、羊料理…中国西北地方、シルクロード、内モンゴルなどの代表的食材を使った料理、ご当地麺・小吃…中国各地の麺料理やファストフードです。
また地方料理としては、一般に知られる中国四大料理(北京、上海、広東、四川)以外の地方の、これまで日本ではあまり知られていなかった湖南料理、雲南料理、福建料理、東北料理などです。
「4つのジャンル」+ これまで知られていなかった「地方料理」
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ではそれぞれもう少し詳しく紹介しましょう。
まず四川省発祥の「麻辣系」グルメとその進化系。
いま都内を席巻しているのが「麻辣系」です。「ガチ中華」の代名詞ともいえます。痺れる辛さに口から火を吹き出しそうな四川火鍋が代表的ですが、最近はカスタマイズして楽しめるマーラータン(麻辣燙)や串串香のような創作料理が増えています。
中国北方では定番の「羊肉料理」を出す店も激増中です。
中国東北地方や華北・西北、内モンゴルでは定番食材の羊肉。串焼きだけでなく、蒙古火鍋や羊肉泡馍のようなスープ、軽食などのメニューも豊富です。ちなみに日本で食べられる羊肉の99%はオーストラリアやニュージーランドなどの輸入だそうです。保冷技術の推進で、新鮮な羊肉が入手できるようになったことから、また味の濃い中華の調理法もあり、以前は気になっていたにおいもそれほどきにならなくなりました。
中国各地のさまざまな「ご当地麺」を出す店も増えています。
中国では長江を境に北は小麦麺、南は米麺(米線、米粉など)が主流。各地の地方料理の店が増えるのにともなって、蘭州牛肉麺(甘粛省)やビャンビャン麺(西安)、米線(雲南省)などが普通に食べられるようになりました。
中国各地の粉モノ系を中心にした小吃(ファストフード)も食べられるようになりました。
都内各地に中華フードコートやカフェ風の軽食店が誕生したせいです。小腹が空いたとき、おやつ代わりに食べる煎餅果子(山東省)や生煎包(焼き小籠包)(上海)、涼皮(西安)などが有名です。小吃は若者の食べ物のように思われていますが、実は中国の中高年の人たちも懐かしさゆえによく食べている光景を見かけます。
中国各地の地方料理としては、華北・西北ベルト地帯(羊、麺、小吃)、東方料理群(上海)、南方料理群(香港・広東、福建、台湾)、西南料理群(四川、湖南、雲南・貴州)、さらに東北料理があります。
まず「四川料理」。痺れて辛い(麻辣)料理の発祥地。「ガチ中華」といえばこれ。
唐辛子を敷き詰めた水煮魚のような見た目のインパクトに代表される四川料理ですが、口に残るシャープな痺れは日本人に新食感。最近、白身魚の麻辣スープ煮込みの烤魚が人気です。辣子鶏もこのとおりトウガラシの山に鶏肉が埋まって見えます。
「湖南料理」は中国では最も辛い地方料理として有名です。
四川料理ほど花椒は多用しませんが、トウガラシの量はハンパではありません。湖南省の発酵食材屋調味料への関心の高まりから、都内に湖南出身者による専門店がいくつもオープンしていています。剁椒魚頭や紅焼肉、湖南腊肉などが有名です。
「雲南料理」は中国の少数民族エリアで、山菜やキノコを使うヘルシーな料理です。
四川料理の影響を受け、辛さに加えて酸味の利いた味が特徴。中国では雲南旅行のブームで、人気となっています。まだ数少ないですが、都内に過橋米線や汽鍋鶏などの創作雲南料理を食べさせる店が現れています。
「新疆料理」は新疆ウイグル自治区発の料理でベースは中央アジア料理です。
中国建国以降、多くの華人が新疆に移住したことで、もともとトルコ系のウイグル料理が中華化して「新疆中華」とでも呼ぶべき味覚が生まれました。現代中華風にトウガラシを多用した味が特徴で、ラグマンや大盤鶏などが有名ですが、どれもウイグル人が経営する店の料理より辛いです。
「福建料理」は山海の素材を生かしたスープ料理が多く、日本人の口にもよく合います。
台湾や沖縄の料理とも縁が深いのが福建料理で、刺激的な調味料は使わず、ダシでとった親しみやすい味。そのぶん四川料理などに比べるとインパクト不足に見られがち。都内に専門店は意外に少ないです。茘枝肉や海蠣煎蛋、福清番薯丸などがおいしいです。
「東北料理」は厳寒な気候から煮込み料理がメインで、味は濃く、塩気も強いです。
実を言えば、都内で最も多いのが、東北出身のオーナーの店です。白菜を発酵させた「酸菜」を使った鍋など、ヘルシーな料理もあります。鉄鍋燉や水餃子、地三鮮などが有名です。
日本人の人気旅行先、台湾では屋台料理が充実しています。
基本は海鮮素材を多用したさっぱり味ですが、戦後国民党が来て、中国各地の地方料理も広まりました。鹹蜆仔(キャムラー)や台南担仔麺、蘿蔔糕(ツァイタウクエ)などが知られていますが、最近では都内に台湾の外食チェーンも続々開店しています。
「華北料理(北京料理)」は山東料理がベースで、首都北京だけに全国の味が集まっています。
小麦の産地なので、ご飯より麺や包子などが主食。モンゴル料理の影響も受け、羊肉を多用します。羊のしゃぶしゃぶの涮羊肉や北京烤鴨(北京ダック)、炸醤麺は北京の名物料理です。
「上海料理」は中国では珍しい甘口の料理で、紹興酒に合います。
長江下流域の江南地方は「魚米之郷」と呼ばれる中国で最も豊かな土地で、醸造酒や醤油、酢などをうまく使い、コクと甘みのある上品な味つけで、ご飯にも合います。蟹粉豆腐や水晶蝦仁、小籠包などが有名です。
広東料理をベースにした香港料理はもはや世界料理ともいえます。
1990年代に都内で一世風靡した大型飲茶楼は姿を消しましたが、最近では点心、焼味、お粥、ご当地麺などを食べさせてくれる店が増えている。香港のファミレスといわれる茶餐廰も続々開店しました。香港の飲茶で食べた叉焼飯やエビワンタン麺が気軽に食べられる店が増えているのはうれしい限りです。
次に「ガチ中華」の現在形として以下の10ジャンルを命名しています。
それぞれ見ていきましょう。まず「ギラギラ系」。
とにかく店内の内装が派手で、「国潮」という中国で流行のデザインを採用しています。人気メニューはたいてい焼烤(中華風バーベキュー)。撒椒小酒館大久保店や灶門坎池袋店などが知られています。
「海外トレンド上陸系」は、中国の食の最新トレンドがそのまま日本に持ち込まれている店のことです。
新しい調理器具の開発による創作料理の蒸気石鍋&蒸気海鮮(食彩雲南)や中国90年代レトロブームを体現したレトロチャイナ食堂(九年食班)などがあります。
「話題の中華フードコート」としては、2019年11月に池袋の中華食材店「友誼商店」の隣にオープンした「友誼食府」が有名です。2021年には、同じく池袋に食府書苑や沸騰小吃城などもオープンし、日本人客が増えています。
2010年代半ば頃から中国各地の「外食チェーン」が日本に出店しています。
譚鴨血老火鍋(四川発)や楊國福麻辣燙(黒龍江発)、賢合庄火鍋(四川発)、沙县小吃(福建発)などが有名です。
中国で外食チェーンが生まれたのは1990年代のこと。2000年代以降、特に四川料理のチェーンが全国展開しました。2010年代になると、海外出店も始まり、日本にも多くのチェーンが開店したのです。
世界各地に現地化したご当地中華が生まれていますが、こうした「南洋中華」や「海外現地化系」が食べられる店は日本にもあります。
世界各地でこれほど中華料理が食べられるのは、多くの移民がそれを伝播し、おいしさが世界の人々に受容されてきたからです。中国由来の料理はその土地ごとに現地化し、ユニークな食の世界が生まれています。
チャジャンミョン(韓国)やアメリカンチャプスイ(インド)、チキンライス/海南鶏飯(シンガポール)、ジェネラル・タオ・チキン(アメリカ)などが有名です。
これまでざっと都内に存在する「ガチ中華」を紹介してきましたが、これらの料理にはいままでの日本にはなかった以下のような特徴があります。
詳しくは東京ディープチャイナにアーカイブ化されたウエブ記事を参照ください。
「ガチ中華」の誕生とブームの背景【後編】なぜ東京に出現したのか
(東京ディープチャイナ研究会・中村正人)